転載元ー
http://www.jlzda.gr.jp/pdf/qa2008_2.pdf 鉛あれこれQ&A
協同製作 全国鉛管鉛板工業協同組合
日本鉱業協会 鉛亜鉛需要開発センター
Q1.鉛は古くからある金属だとは知っていますが、大体いつごろから使われているのですか?
A → ページ2
Q2.鉛の物理的性質はどうなっているのですか?
A → ページ2
Q3.鉛の有用性と使用事例について教えていただけませんか?
A → ページ2
Q4.鉛の需要量はどれ位あるのですか?
A → ページ11
Q5.鉛のリサイクルは現在どのようになっているのですか?
A → ページ12
Q6. 鉛及びその化合物の環境等の基準値を教えてほしいのですが?
A → ページ13
Q7.最後に、最近新聞紙上等で鉛の毒性が叫ばれていますが、鉛ってそんなに怖い物なのですか?
A → ページ13
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Q1.鉛は古くからある金属だとは知っていますが、大体いつごろから使われているのですか?
A1.鉛は自然銅や自然金に続いて、最も古くから人類が利用した金属のひとつです。紀元前5000
年〜7000年に陶器に酸化鉛が使用され、紀元前3000年頃にはエジプトで魚網用に鉛錘が
使用されていたようです。ローマ時代に入り水道用に鉛管が使用され始め、紀元後1400年に
なると活字印刷が発明され、鉛合金の活字が使用されだしました。
日本においては1500年代においては弾丸用としての利用があり、江戸時代、仙台藩では貨幣
に使用され江戸中期になると屋根瓦として使用されるようになりました。明治に入り水道用鉛管
が使用され始め、日本の近代化に伴い鉛バッテリー、耐食材料、電極材料、放射線防護材、遮音
材など用途開発がおこなわれていきました。
Q2.鉛の物理的性質はどうなっているのですか?
A2.・鉛の原子番号は82、原子量は207.21です。
・鉛の密度は20℃のとき11.34g/cm3です。
鉛より密度が大きいのは金・白金・タンタル・タングステン等貴金属や希少金属等に限られます。
鉄の約1.4倍の密度があります。
・鉛の融点は327℃です。
鉛は融点が低く容易に溶かすことができます。
・鉛の電気比抵抗は20.65μΩ・cm(20℃)です。
鉄の約2.2倍、銅の約13倍、チタンの約0.3倍です。
Q3.鉛の有用性と使用事例について教えていただけませんか?
A3.鉛を特性別に見てみますと次のような用途例があります。
(例1) 鉛バッテリー
(例2) 放射線吸収の用途
(例3) 放射線の化学的作用を利用した改質、生物学的作用を利用した殺菌
(例4) 機械的振動に対する減衰材としてビル等の免震装置
(例5) 音響の方面での遮音材
(例6) 耐食性が極めて優れているため屋根材
(例7) 装飾
(例8) 電解銅箔製造用鉛電極
(例9) ウエイト
これらを次に示します。
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(例1) 鉛バッテリー
鉛が電気エネルギーを化学エネルギーとして蓄電する現象に着目し、それを応用した物です。
廉価で高い信頼性、しかもリサイクル可能な鉛バッテリーは、自動車をはじめ電気通信、非常
用電源、フォークリフトなどに利用され、近代社会には欠くことのできない強固な基盤を築い
ています。
(例2)放射線吸収の用途
鉛の放射線吸収:上記のように鉛は原子番号が高く、密度が大きいという特徴から放射線の
吸収材料として広く利用されています。さらに放射線によって放射化されず安定であるという
ことも、この用途の材料として大きい利点です。その性質を利用した身近なものに病院のレント
ゲン室やCT スキャン室の遮蔽板、またPET 用ホットセルがあります。
原子力発電所をはじめ大学や研究所の放射線装置の遮蔽材としても広く使われ、安全確保に寄
与しています。その例としてエックス線非破壊検査装置、Ge(ゲルマニウム)検出器があります。
これらを次にご紹介します。
病院のレントゲン室やCTスキャン室:
壁、ドア、及び天井は鉛の遮蔽板が使用されています。
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PET用ホットセル:
(PETとは陽電子放射断層撮影の事で、ポジトロン・エミッション・トモグラフィの略です)
PETは癌の早期発見等に使われます。放射性(RI)医薬品を体内に投与すると癌細胞にこ
れが多く集まり、放出する放射線を検知する検査方法です。
このセルの中で放射性(RI)医薬品を合成したり、希釈したり、分注したりします。内部
に遮蔽材として鉛が使用されています。
エックス線非破壊検査装置:
溶接線部の健全性や製品の欠陥箇所を破壊せずにエックス線照射により検査することが出来
ます。内部に遮蔽材として鉛が使用されています。
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Ge(ゲルマニウム)検出器:
試料の微量放射線を測定する装置です。自然界にある放射線をさえぎる遮蔽体に鉛が使用され
ています。写真の装置は試料を自動的に交換するロボットが組み込まれています。
(例3) 放射線の化学的作用を利用した改質、生物学的作用を利用した殺菌
電子線照射装置があります。
タイヤ・ゴムシート等に電子線照射すると耐熱性、硬度などを向上させ、高品質のさまざま
な高品質の工業製品を生み出します。また、食品の殺菌や医療用具の滅菌にも電子線は有効なの
です。遮蔽用として中に鉛が入っています。
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(例4) 機械的振動に対する減衰材としてビル等の免震装置
免震装置のひとつに鉛免震ダンパーがあります。
この写真の様な鉛製ダンパーが建築物の基礎に取り付けられ、機械的振動に対する減衰材と
してビル等の免震装置に 用いられています。震度6の福岡県西方沖地震でも福岡市内13棟の
免震ビルはほとんど無傷、書棚の転倒被害も無かったと聞いています。
(例5) 音響の方面での遮音材
写真の様な防音室で、鉛は遮音効果を抜群に発揮します。
音響の方面では、吸音能力も高く遮音材としてオペラホールやホテルの壁、最近ではマンシ
ョンの配水管などに使われています
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(例6) 耐食性が極めて優れているため屋根材
鉛は耐食性が極めて優れ、展延性がよく非常に加工性のよい金属です。
イギリスを始めとするヨーロッパでは多くの家屋で屋根材として鉛が使用されています。
日本国内では屋根材に鉛を使用している例は少ないですが、次にご紹介します。
九州国際交流センターの屋根
金沢城の屋根全景 その細部
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(例7) 装飾
東京の銀座にCHANTOという居酒屋があります。
店内のカウンター、トイレのドア・手洗い場、照明器具カバー、いたるところに次の写真で
お見せします様に鉛の板が貼ってあります。
シックで大人の雰囲気をかもし出すのに鉛は案外と効果があるようです。
カウンターに鉛が張ってあります。
トイレのドアにも鉛が張ってあります。
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トイレの手洗い場も鉛です。
大きな照明器具カバーも鉛です。
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(例8)電解銅箔製造用鉛電極(アノード)
電解銅箔はパソコン・携帯電話・テレビ等のプリント基板に無くてはならない材料です。鉛
はその電解銅箔を作るための電極(アノード)として使われています。
(例9) ウエイト
密度が大きく、融点が低く、加工性がよく、しかも安価である鉛の特徴から建設機材用ウエイト・
医療機器用バランスウエイト・搬送用カウンターバランスウエイト・タイヤのバランサー・ヨッ
トのキール・スポーツ用品のバランサー・リハビリ用ウエイト等、様々な分野で利用されていま
す。
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Q4.鉛の需要量はどれ位あるのですか?
A4.徐々に減少傾向にはありますが年間20〜30 万トン程度の鉛が消費されています。国内の用途別
消費量は次表のようになっています。
電気鉛・再生鉛の国内需要量
出所:経済産業省 調査統計部
鉄鋼・非鉄金属製品統計年報
2002 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年
合計 267,620 259,434 223,594 190,726 313,599
蓄電池 201,148 194,713 160,678 135,829 264,855
無機薬品 20,134 20,609 25,861 19,408 11,865
再生 9,871 8,584 6,647 8,054 11,659
鉛管板 3,300 3,349 3,058 3,594 2,591
はんだ・銅合金塊 9,168 8,644 8,727 7,229 7,258
その他 9,332 12,551 10,701 7,930 7,492
輸出 14,667 10,984 7,922 8,682 7,879
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Q5.鉛のリサイクルは現在どのようになっているのですか?
A5.鉛はリサイクルの優等生です。
下記のグラフからもわかるように平成13年度において鉛の国内需要量と鉛屑回収量は同量と
なっています。
たとえば、車に使用されている鉛バッテリーは平成6 年10 月(社)日本蓄電池工業会(現在、
(社)電池工業会)により発表された「鉛リサイクルプログラム」により、ここ数年間は100%
近くの回収率が維持されておりリサイクルシステムの優等生と言われています。
私ども、鉛遮音板・遮蔽板の生産販売に関わっているものとして、資源有効利用、リサイクルの
観点からも、その特性や経済性から見ても、また、有用な金属である鉛を一般環境に不用意に拡
散させないためにも、遮音・遮蔽板の廃棄物からの鉛リサイクルに積極的に取り組んでいます。
鉛リサイクルについてのお願い
鉛に異物が付着していないこと(端材の鉛と他の材料は分別をお願いいたします。)
運賃、処理費用はご負担願います。
製造会社指定の場所へ持ち込み願います。
とにかく、何でも気軽にご相談ください。
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Q6. 鉛及びその化合物の環境等の基準値を教えてほしいのですが?
A6 鉛及びその化合物については環境及び、排出の面から次のように決められています。
・環境基本法では次のようになっています。
水質汚濁に係わる環境基準について
0.01mg/リットル 以下
土壌の汚染に係わる環境基準について
0.01mg/リットル 以下
・大気汚染防止法では工場および事業所のばい煙の排出基準は次のように定められています。
10〜30mg/Nm3 (施設ごとの排出基準となっています。)
・水質汚濁防止法では次の排出水の基準が定められています。
0.1mg/リットル (許容限度)
・水道法に基づく水質基準では次の基準が定められています。
0.01mg/リットル 以下
Q7.最後に、最近新聞紙上等で鉛の毒性が叫ばれていますが、鉛ってそんなに怖い物なのですか?
A7.鉛の毒性や鉛中毒の症状については古い時代から知られており、19世紀の半ばに鉛の製錬、加
工に従事していた者に鉛中毒が多く発生し、死亡率も高かったことが記録されています。その主
な原因は浮遊する鉛粉や鉛化合物が口や鼻からはいり、ある許容限界以上の鉛が体内に摂取され
たためです。
その後、鉛製錬所をはじめ、私ども鉛の加工工場においても職場環境の改善、衛生管理の徹底等
の諸対策を講じてきました。現在では、鉛を直接取り扱っている製錬所や私どもの工場において
さえ鉛中毒の発生は皆無であります。鉛地金や金属鉛の加工品に触れただけで鉛中毒になる心配は
全くありません。
鉛は取り扱いを間違えず、その性質をうまく利用すれば我々の生活を便利に、そして豊かにして
くれる物なのです。
下記より多く「引用」しました。
中島喜教:鉛―社会を支えるすぐれもの、
2005 年6 月20 日産業新聞、コラム産業春秋欄
鉛の有用性についてご理解いただけたでしょうか。
これで、「鉛あれこれQ&A」を終わらせていただきます。ありがとうございました。
(2008.2
転載元ー
http://www.jlzda.gr.jp/pdf/qa2008_2.pdf